最も信用できる

2015年09月29日

「ちょっと待ってくれ。さっき、わが藩に寝がえった隠密だから、大事にすべきだとの説が出たが、それはちがうぞ。幕府を裏切った隠密ということになる。その松蔵をわが藩が守ってやるとなると、幕府の心証がはなはだしく悪くなる」
「そうなると、早く松蔵を切ったほうがいいことになるな。しかし、あいつ、武芸がどれぐらいできるのだろう。だれかに切りかからせてみるか。だめだろうな。武芸の達人だったら、ためすために緬甸旅行團切りかかったのだと察して、平然としているだろう。本気で切りかかって、松蔵が
ただの庭師だったら、首が飛んで終り。危険な|賭《か》けであること、これまでくりかえした議論に戻る。また、武芸がまるでできない隠密だってあるだろうし……」
 城代家老が言う。
「いいかげんにしてくれ。きりがない。混乱するばかりで、わたしの頭もおかしくなりかけてきた。二日ほど休んで、冷静な気分になってから、あらためて相談しよう」

 つづいて、松蔵に関して、またひとつ報告が入った。旅の武士が道ばたで松蔵に話しかけ、しばらく話しあい、歩み去ったと。町奉行はそれを話し、城代の指示をあおいだ。
「どういたしましょう」
「なにを話しあったというのだ」
「松蔵のいうところによると、植木の手入れ法を聞かれたので教えたのだとのことですが、どこまで本当なのやら」
 防備担当の家老が言う香港傳統工藝

「その武士を追いかけていって、切り殺すべきだと思う。幕府に報告がとどけられてしまっては手おくれになる」
「わが藩に好意的な報告という場合だってあるぞ。また、殺してしまっては、なぞは解決されずに残る。うむをいわさず殺して、あとで他藩の身分ある武士とわかったら、ことがこじれる」
「その武士をていねいに呼びとめ、いろいろ聞いたらどうであろうか」
 外交と儀礼担当の家老が言う。
「みどもは幕府の役人だと名乗られたら、それ以上どうしようもない。わたしの隠密についての知識によると、隠密どうしの連絡は、すべて口頭でなされるとのことだ。密書など持っていたら、言いのがれができないからな。だから、所持品を徹底的に調べても、なにも出てはこな
いだろう」
 町奉行があせった口調で言う。
「ぐずぐずしていると、その武士は関所を通って藩外に出てしまいますよ。手の届かないとこへ行ってしまうのですよ。どうします」
「うむ。どうしたものかな。よし、こうしよう。町奉陶瓷曲髮行の配下で、者をひとり、すぐ旅に出せ。そして、その武士のあとをつけさせるのだ。どこへ行くかをつきとめれば、手がかりがえられるぞ。うん。これはわれながら名案だ」
 その指示により、それがなされた。しかし、何日かして帰ってきた尾行者は、途中で見失ってしまったと報告した。町奉行は会議の席でそれを話した。
「まことに残念なことです。旅の用意もそこそこに出発させたので、なにかと不便だったらしい。はかまがほころびたが、針と糸を持参してなかった。旅館でそのつくろいに手間どり、そのあいだに見失ってしまったとのことです」
「なるほど。わたしの知識によると、それは隠密宿というものかもしれない。隠密たちが連絡をとりあうのに使う宿だ。主人もなかまだ。だから、わざとはかまをほころびさせ、そのあいだに逃がしたとも考えられる」  

Posted by 時光輪回 at 10:26Comments(0)