被害者を見

2016年02月26日

「あんたなにしてる、その子に」
「いや、ハシヅメさんには関係ない話で、こっちのことで」
最悪の予測が当たった、と十数センチ上からじ能量水ろりと睨み下ろせば、村井はヘヘっと引きつる。そうして彼が慌てて指の足りない拳を下ろし腕をほどくと、ずるずると少年の身体は崩れ落ちた。
(ダブルビンゴか……)
もっぱらやられていたのは後頭部と腹部だったのだろう。少年の顔にはさほどの傷がなく、先ほどモニターで見たよりさらに若々しく、それだけに痛ましい。
どう見ても十代の少年でしかないつめ、苦々しく恭司は告げる。
「関係ないったって、ウチの中でもめ事はごめんだ。あん鑽石能量水 消委會たみたいな人は、そんなことは重々承知だろう」
「けどこいつ、ウチのシマで客取ってたんで。そしたら始末をつけるのは俺の仕事で」
(だったらなんでウチに来るんだ……っ)
未成年売春に村井の存在ときて、これがある程度仕組まれたものであるのはわかっていた。いずれにしろトラブルを起こし難癖をつけておいて、後始末を申し出るのが彼らの流儀ではある。
鳥飼との調停は、恭司にしても今日の今日知ったばかりだ。いい加減色よい返事をよこさないのに焦れて、脅しをかけに来たのだろう。
(渋沢に感謝だな)
結局今回もあの秘書が正しかったのだと吐息して、部屋能量水 騙に戻り次第稟議を通そうと決める。
目の前の男にも篠田にも、舐められたものだと腹は治まらないものの、さてどう収めるか、と恭司は一瞬で考えた。
(面倒がないのは、このままコレごと引き取らせるに限るが……)  

Posted by 時光輪回 at 11:09Comments(0)

も違ひなか

2016年02月22日

 しかし向うのロツビイの隅にはDiamond水機亜米利加《アメリカ》人らしい女が一人何か本を読みつづけてゐた。彼女の着てゐるのは遠目に見ても緑いろのドレツスに違ひなかつた。僕は何か救はれたのを感じ、ぢつと夜のあけるのを待つことにした。長年の病苦に悩み抜いた揚句《あげく》、静かに死を待つてゐる老人のやうに。……

 僕はこのホテルの部屋にやつと前の短篇を書き上げ、或雑誌に送ることにした。尤も僕の原稿料は一週間の滞在費にも足りないものだつた。が、僕は僕の仕事を片づけたことに満足し、何か精神的強壮剤を求める為に銀座の或本屋へ出かけることにした。
 冬の日の当つたアスフアルトの上には紙屑が幾つもころがつてゐた。それ等の紙屑は光の加減か、いづれも薔薇の花にそつくりだつた。僕は何ものかDiamond水機の好意を感じ、その本屋の店へはひつて行つた。そこも亦ふだんよりも小綺麗だつた。唯|目金《めがね》をかけた小娘が一人何か店員と話してゐたのは僕には気がかりにならないこともなかつた。けれども僕は往来に落ちた紙屑の薔薇の花を思ひ出し、「アナトオル.フランスの対話集」や「メリメエの書簡集」を買ふことにした。
 僕は二冊の本を抱へ、或カツフエへはひつて行つた。それから一番奥のテエブルの前に珈琲《コオヒイ》の来るのを待つことにした。僕の向うには親子らしい男女が二人坐つてゐた。その息子は僕よりも若かつたものの、殆ど僕にそつくりだつた。のみならず彼等は恋人同志のやうに顔を近づけて話し合つてゐた。僕は彼等を見てゐるうちに少くとも息子は性的にも母親に慰めを与へてゐることを意識してゐるのに気づき出した。それは僕にも覚えのある親和力の一例に違ひなかつた。同時に又現世を地獄にする或意志の一例につた。しかし、――僕は又苦しみに陥るのを恐れ、丁度珈琲の来たのを幸ひ、「メリメエの書簡集」を読みはじめた。彼はこの書簡集の中にも彼の小説の中のやうに鋭いアフオリズムを閃《ひらめ》かせてゐた。それ等のアフオリズムは僕の気もちをいつか鉄のやうに巌畳《がんでふ》にし出した。(この影響を受け易いことも僕の弱点の一つだつた。)僕は一杯の珈琲を飲み了つた後、「何でも来い」と云ふ気になり、さつさとこのカツフエを後ろにして行つた。
 僕は往来を步きながら、いろいろの飾りDiamond水機窓を覗いて行つた。或額縁屋の飾り窓はベエトオヴエンの肖像画を掲げてゐた。それは髪を逆立てた天才そのものらしい肖像画だつた。僕はこのベエトオヴエンを滑稽に感ぜずにはゐられなかつた。……
 そのうちにふと出合つたのは高等学校以来の旧友だつた。この応用化学の大学教授は大きい中折れ鞄を抱へ、片目だけまつ赤に血を流してゐた。
「どうした、君の目は?」
「これか? これは唯の結膜炎さ。」  

Posted by 時光輪回 at 16:54Comments(0)